deleの作り方

原案および3話分の脚本(第1、5、最終話)を担当した本多孝好氏と、この企画の仕掛け人の一人で第6話の脚本も手掛けた金城一紀氏。学生時代からの親友で、作家として互いを認め合った2人が、『dele』で初めてタッグを組む。その制作過程には、どんな経緯があったのか? 山田兼司プロデューサーを交えた対談から、ドラマ化に至る舞台裏をひも解いていく。

企画立ち上げの経緯について教えてください。

金城

僕は今、角川(株式会社KADOKAWA)と組んで、作家と映像メディアを繋ぐ“PAGE-TURNER”という組織の運営に携わっていまして。これまでは自分の企画を主に扱っていたのですが、他の作家さんとやるなら、第一弾を誰にお願いしようかと考えたときに、真っ先に思い浮かんだのが本多でした。

本多

金城が、そういう組織を立ち上げたという話は聞いていて、僕自身、自分の作品の映像化に直接かかわることへの興味もあったのですが、果たして友人と組んでそれをやるというのがどうなのかという思いもありまして。金城の活動を横目で見ながら…という時間がありました。

金城

最初は、「ちょっと企画考えてみない?」という感じで話を振ってみたんですけど、それで持ち込んでくれた『dele』の企画書が、めちゃくちゃ面白くて。これはいけると思うから、もうちょっと企画の輪郭をくっきりさせて、映像メディアに持ち込もうと提案したんです。

本多

金城が、「とりあえずやってみたら?」という緩いスタンスだったから、乗りやすかったというのはあります。ずるい言い方ですが、僕の方は、「声を掛けてくれるならやってみようかな」という感じでしたから(笑)。思い返してみると、学生時代に「小説を書いてみろ」と最初に言ったのも金城。その当時は、自分と小説の繋がりなんて何もなかったのですが、そう言うなら書いてみようかと。今回は、そのときのノリとほとんど同じですね(笑)。

金城

余談ですが、大学4年のころ、僕が編集長という役回りで、文集のようなものを作り、それに載せる小説の一編を本多にお願いしたんです。直感でしかなかったのですが、なぜか「本多なら書ける」と思ったんです。実際、書いてきた作品を読んだら、感性が瑞々しいというか、登場人物の会話がとにかく素晴らしくて。当時、僕は小説家志望の単なる素人だったのですが、「お前は絶対にプロになれるから、目指せ!」と無責任なことを言った記憶があります(笑)。

本多

そのころ、僕は司法試験のために論文を書く練習をしていたので、書くこと自体は苦にならなかったんです。むしろ、小説を書くのが楽しくて仕方なくなってしまって、勉強そっちのけで書いていました。

金城

本多は、愚直というか、素直で真面目な男ですから、あっと言う間にたくさんの作品を書いて小説の書き方をマスターし、僕より先に新人賞を取ってしまいました(※プロフィール参照)。その上達ぶりは、半端なかったですね。

山田

才能のある2人が、出会っていたわけですね。

金城

話は戻りますが、本多がある程度、『dele』の輪郭を作った段階で、信頼できるパートナーとして、『BORDER』を一緒にやった、山田Pに見てもらいました。

山田

そのときにいただいた企画書が、とにかく面白くて。個人的にも、これは絶対に映像化したいと思いましたから、まずはドラマに落とし込むにはどう形を整えればいいか、本多さんと2人で練り込むところから始めました。

本多

作品の核になるキャラクター設定を詰めた後、パイロット脚本として1話をどう作ろうかという話になったのですが、それを固めていくのに半年以上かかりました。小説では、地の文である程度説明ができるので、読者との間に了解を作るのが割と簡単なのですが、映像化を前提とした脚本ではそうはいかない。何より、作品の骨子を伝えるイントロダクションの部分が、僕が考えていたよりはるかに短くて。僕は最初、主人公の2人が出会うまでを、丸々1話を使って描こうと考えていたのですが、それは冒頭の5分でやってくれと。そのスピード感には本当に驚きましたし、正直すごく戸惑いました。

山田

ただ、金城さんも先程、上達の早さについておっしゃっていましたが、脚本に関しても同じで、本多さんはとんでもないスピードで脚本のフォーマットをマスターしてしまった。

本多

僕は、教えてもらったことを形にしていっただけです。そもそも、金城という映像関係者への信頼があって、その信頼する人物から「このプロデューサーと一緒にやって、ダメだったら他はない」と言われてましたから。「山田Pに言われたことはとにかく素直に聞こう」という前提があったんです(笑)。

山田

昨今の環境では、なかなか実現できないのですが、この作品は「面白いドラマを作る」ということを一直線に目指した、クリエイティブファーストの希有な企画。金城さんと本多さんというクリエイターと一緒にそれができたというのは、僕にとっても本当に幸せなことでした。

キャスティングについては、どんな流れだったのでしょう?

山田

話が前後しますが、キャスティングの打診自体は、本多さんとキャラクター設定を詰めている段階で平行して行いました。それで、理想のキャストは誰だろうと相談する中で、本多さんから真っ先に名前が挙がったのが、山田(孝之)さんと菅田(将暉)さんだったんです。

本多

単純に、この作品の主人公を誰が演じたら見たいと思うか…というところから思い浮かんだのが、そのお2人だったんです。お2人とも、二面性をきちんと出せる役者さん。静けさの中の激しさ、暗さの中の明るさ…みたいなものを“平面”で出せる。そんなところに惹かれたんだと思います。

金城

僕は、2人の名前を聞いて、最初は「本当にやってくれるの?」と半信半疑でした(笑)。

山田

社内的にも、本当にオファーを受けてくれたのか、僕が嘘をついているんじゃないか…と疑われていたくらいですから(笑)。

金城

それでも、トントン拍子に話が進んだんですよね。本多は、脚本家デビュー作でこんな豪華なキャストに恵まれるなんて、本当に幸運だと思います。

キャスティングが決まってから脚本の執筆に取り掛かったということで、 “当て書き”されたとのことですが、山田さんと菅田さんの役へのハマりぶりはいかがでしたか?

本多

僕は、撮影に2日ほどお邪魔したのですが、その時の印象で言うと、イメージと全然違ったなと。それは決して悪い意味ではなくて、例えば、その人に合わせて作った衣装でも、着方が違えば見え方も変わってくる。役者さんが役に命を吹き込むというのは、こういうことかと納得しました。

金城

僕が現場で感じたのは、2人とも、とてもしなやかな役者だということ。演技はもちろん、役に対するアプローチも柔軟で、キャラクターを自分のものにしているという印象を受けました。

本多

2人が並んだとき、僕の中ではもっと、しっくりき過ぎるのかなと思っていたのですが、それも違いました。もちろん、お2人がそういうふうに演じているからではあるのですが、主人公の2人がバディーとしてぶつかっているというか、刺激し合っている感じが、見ていて本当に面白いなと思いました。

そもそも、「デジタル遺品」というテーマを物語に取り入れようと考えたきっかけは?

本多

近年「デジタル遺品」はニュースでも取り上げられるくらい、人の死と切り離せないものになってきた。個人的には今後、死を前にした人間が“何を残したいのか”ではなく、“何を消したいか”の方に、その人らしさというか、その人が過ごしてきた人生が見えてくるんじゃないかと思うんです。それを物語にしたらどうなるだろう…と考えたのがきっかけです。

金城

これからあらゆるものがデジタル化していくでしょうから、デジタル遺品は今後、人生の大きなテーマになっていくんだろうと思います。ただ、いっぽうで“人の思い”というのは、いつまでたってもアナログなもの。そのアンバランスさが面白いですよね。本多は、すごいところに目を付けたなと思います。僕は、基本的に脚色(他の作家が作った世界観の中で脚本を書くこと)はやらないんですけど、この作品だけは本当に面白そうだと感じたので、ぜひ自分も書いてみたいと思いました。

最後に、放送スタートを前にした、今の思いを(取材は7月18日)。

本多

自分がやるべき仕事はやりましたから、あとは他のスタッフの皆さんがどんな仕事をして完成したのか、楽しみで仕方がないという気持ちです。

金城

本多は、本当に幸せな脚本家デビューを飾ることになったなと思います。僕個人としては今回、マネージメントという立場もありましたので、本多がよく乗り切ってくれたという感慨もあります。実際、脚本を初めて書くという人間が、連ドラを3話分仕上げるのは並大抵のことじゃなかったと思います。本当に頑張ってくれました。

山田

中でも、第5話として放送予定の回は、本多さんが得意とする会話劇を中心としたエピソードになっています。ゲスト出演してくださる方も、普通ならこの時間帯のドラマに出る方ではないのですが、脚本を読んで、「これなら出たい」とおっしゃってくれた。脚本に惹かれたという部分が大きいと思います。ゲストは追々発表しますので、皆さんはそれも楽しみにしていただければ。

本多

今回は、僕たち以外にも、いろいろな脚本家さんが参加してくださったことで、主人公のキャラクターに多層的な魅力が備わった。それを2人の素晴らしい役者さんが演じてくれているわけですから、画面を見ているだけで幸せな時間になると思います。ぜひ、楽しんでご覧ください。

本多孝好による小説版「dele」「dele2」 ドラマとは異なるオリジナルストーリー

dele

『dele』著者:本多孝好

定価(本体640円+税)
発売日:2018年5月25日
発行:KADOKAWA

dele2

『dele2』著者:本多孝好

定価(本体640円+税)
発売日:2018年6月15日
発行:KADOKAWA

本多孝好(ほんだ・たかよし)…1971年生まれ。東京都出身。1994年に『眠りの海』で第16回小説推理新人賞を受賞しデビュー。原作として映像化された作品は、映画『イエスタデイズ』『真夜中の五分前』『ストレイヤーズ・クロニクル』『at HOME アットホーム』。本作で脚本に初挑戦する。
金城一紀(かねしろ・かずき)…1968年生まれ。埼玉県出身。1998年に『レヴォリューションNO.3』で小説現代新人賞を受賞。2000年に発表した『GO』で直木賞を受賞した。これまでに手掛けた映像化作品は、『SP 警視庁警備部警護課第四係』シリーズ、『BORDER』シリーズほか。